厚生労働省の国民生活基礎調査(令和4年)で、日本の自覚症状の1位は──男女とも「腰痛」です。2位の肩こりと合わせれば、日本人の不調の上位2つが、ともに「体を支える部位」であることがわかります。
朝の靴下。46歳、営業マンのKさんにとって、この数か月で一番の憂鬱な仕事になりました。前かがみになって、片足を台に乗せて、やっとの思いで履く。痛みは朝が一番強く、体が動いて温まってくると少し楽になる。長時間の運転と、帰宅後のソファ──心当たりは、その2つだけでした。
※Kさんは、よくある経過を組み合わせた典型例です。
まず知っておいてほしいことがふたつあります。ひとつは、腰痛の多くは、レントゲンやMRIに映らない原因(筋肉・関節・姿勢負担)で起こるということ。「異常がありません」と言われても、痛みが気のせいではないのと同じです。もうひとつは、腰痛治療の基本方針が、かつての「安静」から「痛みの許す範囲で動く」に変わっていること。悪化を防ぐ鍵は、動かしすぎでも安静すぎでもなく、適切に動くことです。
赤旗チェック──この4つだけは、様子見禁止
- 下肢への強いしびれ、足の動かしにくさ
- 排尿・排便のコントロールがきかない
- 発熱を伴う腰痛
- 転倒や事故のあとに始まった腰痛
これらは、単なる腰痛の枠を超えた状態のサインです。当日中に整形外科(緊急性を感じたら救急)を受診してください。逆に言えば、この4つがない腰痛は、まず生活の中での対処から始めていいということです。
温める?冷やす?──判断表
| 状態 | 判断 |
|---|---|
| 急な激痛の直後(ぎっくりとした直後の数日) | 冷やす |
| 数日たって、重だるさが主になった | 温める |
| 朝や冬に、腰が固くて痛い | 温める(入浴・カイロ) |
| 特定の動作や運動の後だけ痛む | その動作を減らす。痛みが強いときは冷やす |
Kさんの「朝固く、温まると楽」は、温めるタイプの典型です。迷ったら、試して楽なほうを続ける。それで間に合います。
2週間、動くプログラム
- 歩く:1日20分程度を、痛みの出ない速度で
- 軽いストレッチ:仰向けで膝を立てて左右に倒す、など痛くない範囲で
- 同一姿勢を減らす:30〜40分に一度、立ち上がる
- 座り方を整える:骨盤を立てて、背もたれに預けきらない
この4つを2週間続けて、まったく変わらない、あるいは悪化するなら、そこで受診の線引きです。我慢の期間を決めておくこと──それ自体が、慢性化の予防になります。
病院では、何をしてもらえるか
整形外科では、問診と診察、必要ならレントゲン。そのうえで、薬(消炎鎮痛薬・筋弛緩薬)、湿布、場合によっては注射やリハビリが、ほとんど保険診療の範囲で並びます。初診の本当の目的は、「赤旗がないことの確認」と「原因のあたりをつける」こと。それがわかるだけで、自宅での対処に確信を持てるようになります。
よくある質問
Q1.ヘルニアじゃないかと不安です
しびれがないのに自己判断で心配するのは、早すぎます。画像所見と症状は一致しないこともあり、診断は医師の仕事です。赤旗があれば、そのために受診してください。
Q2.ベッドで安静にしていたほうが?
現在の方針は「痛みの許す範囲で動く」です。完全安静は筋肉を落とし、回復を遅らせることがあります。
Q3.コルセットは使ったほうがいい?
急性期の短い期間の補助には有用です。ただし常用は筋力低下につながるため、使うなら期間を決めて。
Q4.腰痛って、根本的に治るの?
急性の腰痛の多くは数週間で軽快します。慢性化するかどうかは、痛みが引いたあとの習慣──歩くこと、姿勢、同一姿勢の少なさ──で大きく変わります。
Q5.湿布はどう使えばいい?
最近の湿布は、温感・冷感の刺激よりも「炎症を抑える成分」が主体です。貼ったときの感触で選ぶより、痛みが和らぐかどうかで判断してください。かぶれるようなら、塗り薬への切り替えも選択肢です。
Kさんの靴下は、朝の20分ウォークを始めて3週間後、ごく普通に履けるようになりました(※典型例の経過)。腰痛は日本で一番多い不調です。だからこそ、役に立つのは「我慢の美学」ではなく「対処の手順」です。赤旗を知って、温めか冷やしを決めて、2週間動く。それでも続くなら、1回だけ診察を受ける。この順番を、そのまま使ってください。
